Q | 2000年にビニロンは操業50周年を迎えましたね? |
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A |
はい。ビニロンはクラレが世界で初めて企業化した合成繊維で、長い歴史があります。現在、(1)高強力、(2)低伸度、(3)耐アルカリ性、(4)ゴムやセメントとの接着性がいい、(5)耐候性という特長をいかして、農業資材用では寒冷紗(農作物の防虫・遮光に使う)に、水産分野では魚網・ロープに、建材分野では繊維補強セメント板に、建築・土木分野ではJグリッド(ビニロンを用いて垂直斜面の盛土工法に使う)やコンクリート補強に、紙分野ではアルカリ乾電池セパレーターに、ゴム資材分野では自動車用オイルブレーキホースに使用されるなど、幅広い用途展開が繰り広げられています。 |
Q | 随分いろんな所に使われているんですね。どうして、優れた特性を併せもつことができたのですか? |
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A |
まず、(1)高強力と(2)低伸度について説明しましょう。これは、ビニロンの高分子としての構造が非常にシンプルであることに関係しています。製造工程時にノズルから出てきたビニロンを15倍もの長さになるよう引っ張り、分子を同じ方向に規則的に並べて強度をもたせます。これは、分子構造がシンプルであるからこそできることです。もう1つは、OHで表されるアルコール基の存在です。原料のポバールに由来するアルコール基が、ビニロンの優れた特性のカギとなっているんです。 |
Q | なるほど。どんな風にかかわっているんですか? |
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A |
分子が規則的に並ぶと、図のように、分子中のアルコール基は手をつないでいきます。アルコール基がアンカー(いかり)のように分子同士を結びつけるので、形態が安定し、(1)高強力、(2)低伸度を併せもつことができたのです。 |
Q | では、(3)耐アルカリ性、(4)ゴムやセメントとの接着性がいい、(5)耐候性という特性については? |
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A |
(3)耐アルカリ性を付与できたのも、原料ポバールのアルコール基によります。通常、酸やアルカリが近づくと、一般に分子内の結合は切れやすくなるのですが、ビニロンの場合、アルコール基が分子鎖中に存在することでアルカリのアタックを受けにくくしており、分子が切れにくいのです。このように耐アルカリ性という特徴をいかして、アルカリ性のセメントを用いる繊維セメント板(スレート)をはじめ、アルカリ乾電池のセパレーターにもマッチした素材なんです。次に、(4)セメントとの接着性の良さについて説明しましょう。ここでもアルコール基が働いています。活性で反応性に富んでいるのでゴム・セメント・プラスチックスにくっつきやすいのです。(5)耐候性についても、アルコール基がかかわっています。紫外線は一般的に分子鎖のつながりを破壊するエネルギーをもつのですが、ビニロンは分子中にアルコール基があるため、分子切断の引き金が引かれにくく、耐紫外線性能が高くなっているのです。屋外で使う農業資材に多用されているのは、ビニロンが紫外線に当たっても強いからなんですよ。つまり、ビニロンがもつ優れた特性は、他の合成樹脂に比べて多量のアルコール基をもつ原料のポリビニルアルコール(ポバール)のおかげなんです。 |
Q | 2002年には岡山事業所でビニロンの増設が完了しました。今後の展開はいかがですか? |
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A |
現在、ビニロンは日本国内のみならず、海外でも強いマーケット開発力をもって展開しています。特に、屋根材やゴム資材、アルカリ乾電池のセパレーターといった新用途でのビニロンは、従来の農業資材、水産資材用のビニロンに新たな価値を付与して展開した製品です。これらは、海外への輸出比率が高く、大きな需要が期待できます。クラレは、ビニロンの原料をもつ世界最大のメーカーであるため、常に新しい開発に取り組める強みがあります。今後も、ビニロンの特徴を生かして事業展開を図っていきたいと考えています。 |