2007年入社 エバール事業部 フィルム販売部 大阪販売課
外国語学部 国際文化学科卒
2010年より東京販売課で中国・米国市場を担当。2015年からベルギーのエバールヨーロッパに赴任し、真空断熱板用途向けのEVOHフィルム<エバール>フィルムの拡販に尽力。
2010年入社 エバール事業部 エバール研究開発部
工学府 機能発現工学専攻修了
工学府 機能発現工学専攻修了入社後、EVOH樹脂<エバール>に関わる新規技術開発、顧客の課題解決をサポートする技術サービス、エバールの新規用途開発など様々なテーマを担当。
販売部の吉田が中国市場を担当することになった2010年当時、中国では真空断熱板の市場が立ち上がったばかりで、安価なアルミ箔が多く採用されていた。市場が未成熟なこともあり真空断熱板の評価技術の精度も低く、<エバール>フィルムの強みを正しく理解してもらえない中、吉田は足しげく現地に通い、グループの中国人営業担当との二人三脚で根気よく啓蒙活動を続けた。中国の真空断熱板メーカーや冷蔵庫メーカーとのコンタクト、展示会への出展、説明資料の整備。こうした取り組みが実り、中国の大手メーカーが<エバール>フィルムの優位性である熱伝導性の低さに着目。中国市場で初めて採用実績を作ることに成功した。
吉田が中国市場の開拓を進める一方で、欧州市場での拡販も進められていた。しかし欧州市場において<エバール>フィルムを普及させる上で大きなネックとなるポイントがあった。それは、欧州ではガスバリア性や低い熱伝導率だけではなく、高温・高湿下における水蒸気バリア性も重要視されている点だ。
「<エバール>では欧州で求められる水蒸気バリア性の基準をクリアできない」
この課題の解決に向けて、倉敷のエバール研究開発部では<エバール>フィルムの水蒸気バリア性の増強に向けた研究が日夜進められていた。
研究開発部の清水はこの研究テーマに取り組んだメンバーのひとりだ。しかし<エバール>はその性質上、水蒸気バリアの向上には、技術的に限界があった。そんな中、ある着想がきっかけで研究が大きく進むことになる。
「特別に優れた水蒸気バリア性を有する素材を<エバール>と合わせて使用することで、顧客の要求性能を満たせるのでは?」
早速、クラレの既存技術の中から高温・高湿下でも安定した水蒸気バリア性が発揮できる素材をピックアップ。フィルムコンバーターに多層フィルムの製造を依頼し性能評価を行ったところ、欧州市場で求められる基準を十分にクリアできることが証明された。
水蒸気バリアの改善に向けた研究開発と併せて、真空断熱板の評価装置の導入も検討されていた。フィルムの状態だけではなく、真空断熱板の状態での性能評価も社内で行えるようすることで、メーカーの詳細なニーズを理解することがねらいだ。しかし素材メーカーであるクラレに真空断熱板を製造・評価するノウハウはない。そこで活用したのが、販売部がこれまでに築いてきたネットワークだった。
「販売部から真空断熱板メーカーに製造・評価に関する指導協力を要請してもらえないでしょうか?」
「わかりました。コネクションのあるメーカーに依頼してみます」
中国市場の開拓を進めていた吉田の下にも、研究開発部から協力の要請があった。こうした部門間連携や多くの関係者の尽力の甲斐あって、真空断熱板の評価装置の立ち上げに成功。<エバール>フィルムへの水蒸気バリア性の改善と併せて、停滞気味だった欧州市場での拡販を前進させる契機となった。
吉田は2015年からエバールヨーロッパに着任し欧州市場の担当を続けていた。欧州の真空断熱板メーカーへの提案を進めるに当たって、欧州顧客の要求水準がアジア・日本のマーケットとは異なることから、中々要求水準に達する多層フィルムが出来ずに試行錯誤を繰り返していた、実際に出来上がる多層フィルムの性能が想定していたものと乖離していたり、<エバール>フィルムの本来の性能が引き出せず、真空断熱板メーカーから試験落ちの連絡が続く日々だった。
考え抜いた末に、<エバール>フィルムの扱いに長けた実績のあるアジアのフィルムコンバーターに多層フィルムの製造を依頼し、その多層フィルムを直接、欧州の真空断熱材のメーカーに持ち込んだ。
これにより、<エバール>フィルムを用いた多層フィルムの品質の訴求力、およびメーカーの要求のキャッチアップと開発へのフィードバックまでのスピードが格段に向上。欧州での<エバール>フィルムの初採用に向けた布石となった。
そして2018年。何度も試作を重ね、粘り強く開発を続けた結果、ついに欧州大手の真空断熱板メーカーで<エバール>フィルムが採用され量産が開始。数々の逆境を乗り越え、長年をかけてようやくひとつの成果へと辿り着くことができたのだ。
吉田はエバールヨーロッパから帰国後も引き続き海外市場を担当。<エバール>フィルムの用途やシェアの拡大を図っている。
「真空断熱材用途での拡販に携わる中で、自分自身だけでは乗り越えられないことに多々直面しました。その度に、周りの助けがあって乗り越えて来られました。上司や同僚はもちろんですが、現地の担当者や、研究開発のサポートがあってこそ、可能でした。顧客の担当者や、協力してくれた社外のパートナーも、うまく行かない中でも、私を信頼してついて来てくれました。社内外の人的なネットワークは重要な財産だと思っています。」
清水は今回の研究開発の成果を、フランスの国際学会で発表するという大役を務めた。それを受けて真空断熱板メーカーから販売部への<エバール>フィルムに関する問い合わせが増加するなど反響は大きい。
「国際学会で研究開発の成果を発表したことは貴重な経験になりました。これからも世の中に価値ある素材を提供するために、自分自身の役割を全うしていきたいと考えています」
中国と欧州での成功によって、<エバール>フィルムの海外シェア拡大に向けた大きな一歩を踏み出した。「<エバール>フィルムを用いた真空断熱板を、世界各国におけるスタンダードに」。その目標に向かって、クラレはこれからも歩みを止めることはない。
各社員の所属・内容は取材当時のものです。