安全に関する考え方
クラレグループの事業活動において、「安全」はすべての礎となる絶対条件です。「安心して働ける会社、事故や災害が起こらない安全な会社」の実現は、製品の安定供給を維持するためにも、社会から信頼され続けるためにも必要な重要テーマと言えます。
そうした考えのもと、クラレグループは安全のマネジメントシステムを構築・運用し、様々な活動を行っています。社員の安全意識を高め、安全行動・確認が仕事をする上での「当たり前」のこととして定着させるために、さまざまな取り組みを推進しています。
各現場では、リスクアセスメント活動を通して保安防災・労働安全リスクを発見し、設備の本質的な安全対策を進め、その発生防止を図っています。また万が一、事故・災害が発生した場合に備え、被害を最小限に抑えるための訓練や事故の事例、教訓などの情報共有化や対策の水平展開などにより再発防止に努めています。
- 安全に関する行動原則
- 『安全はすべての礎』
- 安全に関する行動方針(2021年度)
- 1.「安全第一、生産(工事、開発)第二」を徹底すること
- 2.行動前の「危険予知」と行動前後の「確認」を徹底すること
- 3.一人ひとりが「安全」を自分事として積極的に行動すること
安全活動マネジメント
「安全活動マネジメント規則」に基づき、年度ごとに計画を立て、保安防災・労働安全に取り組んでいます。具体的には、社長および担当役員が出席する安全推進会議で、当年度の安全活動実績の総括評価と次年度の活動方針策定を行い、その方針を各事業所・部署の活動計画に反映させ、実行しています。計画立案と活動の状況、成果については、国内グループの各事業所・工場の現場には安全担当役員を含む本社安全スタッフが年2回訪問して検証を行い、海外グループには、3年に1回を目途に本社スタッフが現地を訪問して確認を行っています※。現場での検証から得られた課題やその年の安全成績などをもとに実績の総括評価を行い、翌年の全社の方針策定に反映させて安全活動のマネジメントシステムを動かしています。
※2020年度は新型コロナウイルス感染拡大防止のためリモート会議による検証を実施
保安防災・労働安全の安全重点活動
評価 ○:達成 △:さらに取り組みが必要 ×:未達
2020年度 | 2021年度活動項目 | |||
目標 | 実績 | 評価 | ||
保安防災 労働安全 |
現場の安全確保のための、「危険予知」の徹底 | 「危険予知」と「確認」は効果的な活動により定着しつつあり、事故災害の防止に一定の効果を発揮している。但し、現時点は習慣化と危険への感度向上の段階であり、全員が活動を自分自身の事と捉えて、あらゆる場面で実施できるようになるためには継続的な取組みが必要である。 | ○ |
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現場の「気づき」、「違和感」の発見とその活用 | 「気づき」を増やすための様々な取り組みを行い、危険予知とあわせて安全レベル向上に一定の効果を発揮している。現場の3S(整理・整頓・清掃)状況も継続的な取り組みにより改善されてきており、現場の変化に「気付き」易い状態となって来ている。 | ○ | ||
「新人教育」の内容の見直し、充実化 | 部署により新人教育における作業標準書の活用状況に差があるものの、作業標準書に基づいた教育の徹底を進めている。作業標準書と異なる方法で作業を行い被災する労働災害がまだ発生しており、今後も継続した取り組みが必要である。 | △ | ||
保安防災上の潜在リスクの発掘と顕在リスクの極小化対策の実施 | 対象をプラント立上や停止などの非定常状態にも広げてリスク発掘に取り組むとともに、顕在化したリスクの低減対策を推進している。2020年は工事や保全作業において関係部署間の情報共有と安全措置確認の不足が原因の危険物漏洩事故が発生しており、再発防止の取り組みが必要である。 | △ | ||
グローバル管理体制の確実な運用 | 海外化学プラントにおける保安防災リスクの把握と対策のため、所管カンパニーによる海外拠点への監査等を実施するとともに、所管カンパニー、技術本部、環境安全センターが連携して情報共有化や水平展開検討を行っている。 | ○ |
保安防災・労働安全の数値目標と実績
2020年 | 2021年 | |||
目標 | 評価基準 | 実績 | 目標※1 | |
保安 防災 |
無事故 | 保安事故 0件 |
8件 | A,B,C ランク事故※2 0件 |
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D1,D2 ランク事故※2 3件以下 |
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労働 安全 |
無災害 | A、Bランク労働災害※3 0件 |
3件 | A、Bランク労働災害※3 0件 |
全労働災害度数率※4 1.5以下 |
1.96 | 全労働災害度数率※4 1.5以下 |
※1 従来クラレでは、無事故・無災害を目標とし年度で評価基準となる目標値を設定していたが、2021年度からは具体的な年度目標を意識した取り組みを行うために年度安全目標として目標値を設定することに変更した
※2 当社独自の指標による保安事故の分類;重い方から A > B > C > D1 > D2 の5ランク
※3 当社独自の指標による労働災害の分類;重い方から A > B > C > D の4ランク
※4 全労働災害度数率:医療処置を要する労働災害の労働時間百万時間当りの発生件数を表す
保安防災
クラレグループでは、社会に対して甚大な影響を与える爆発、火災、有害物質の漏洩などの事故の未然防止を図ること、そして万が一事故が発生した際の被害を極小化することを重要な責任と考えています。そのため、保安防災に関するリスクアセスメントに継続的に取り組み、建築物・プラントの地震対策や津波対策、設備の保安管理システムの整備などの保安防災活動を推進しています。
特に、2010年代に発生した他社の事故を契機として、運転立上げや停止、停電、断水、緊急停止といった非定常時のリスクアセスメントに注力しています。更に一歩踏み込み、安全装置が故障した場合、標準の手順やルールが守られない場合なども対象として、様々なリスクを抽出し、その対応策の検討を進めています。
合わせて、異常の兆候検知のための危険感受性向上の教育や異常の判断基準の明確化にも取り組み、異常に対して迅速に対応し、事故に至る前に対処できる工夫や人材の育成に取り組んでいます。
また、万が一に備え、夜間休日、職場長の不在などを想定した訓練、無警告での訓練、外部の施設を利用した訓練、地域消防との共同訓練など、緊急時に対する様々な現場訓練を定期的に実施しています。外部機関による安全基盤と安全文化の評価にも取り組んでおり、より強化すべきポイントを把握してPDCAを回すことで、事故や災害の起こらない安全な会社をめざしていきます。
重大な事故が発生した場合には、社長をトップとする緊急対策本部を設け、速やかな対処・現場への支援ができる体制も整えています。2020年度は、事業所で近隣住民の屋内避難を呼びかける毒性ガスの漏洩が発生した事態を想定して全社の緊急対策本部訓練を行いました。事故の際、地域・マスコミに適切な情報を提供できるよう、対外的な広報の場に立つ主要管理者を対象にメディアトレーニングも行なっています。
残念ながら2020年度は、グループ全体の保安事故件数が合計8件となり、目標未達となりました。海外グループでの発生はなく、国内グループでは直ちに消火できる小火1件および危険物や劇物の漏洩が7件の計8件の保安事故が発生しましたが、大きな災害に発展するものはありませんでした。
クラレグループでは、これまで事故の大小を区別せず発生件数で管理を行ってきましたが、2020年度に当社独自の保安事故のランク分け指標(事故の規模及び発生要因)を導入しました。重大な保安事故(A,B,Cランク)ゼロの必達を目指すとともに、軽度の事案(D1,D2ランク、例;直ちに消火できる小火、ごく少量の危険物漏洩等)の発生を低減するために、現場のリスク把握と対策を推進していきます。
2019年度から開始した海外化学プラントに対する安全監査を20年度以降も継続しており、海外化学プラントの火災事故の再発防止を徹底して図るとともに、監査によって明らかになった課題について対応を進め、保安管理レベルの向上を図っています。
労働安全
クラレグループでは、社員の安全と健康の確保こそが企業活動の基本と認識し、労働安全マネジメントシステムの適切な運用を通じて、組織および社員一人ひとりの安全レベルの向上に努め、安全で災害のない職場を目指しています。安全に関する行動原則、行動方針をはじめとする全社の方針や活動項目などを基にして、各事業所・部署の特徴に合わせた方針・計画を立て、これに沿って各部署が工夫を凝らした活動を行っています。安全活動の状況やその課題については国内の各事業所・工場等で毎月開催される安全衛生委員会の中で労使一体となって討議し、「安心して働ける会社、事故や災害が起こらない安全な会社」の実現に向けて取り組んでいます。
リスクアセスメント活動や設備の本質的な安全対策を通して、設備の不備による災害を減らす活動が進み、重篤な労働災害は減少してきました。しかし、個人の不用意や無意識の行動に起因する労働災害はまだ多く発生しています。この様な災害を無くすため従業員一人ひとりの危険への感度を高める教育を推進しています。
2020年度は、全労働災害度数率がグループ全体では1,96(国内グループ1.00、海外グループ3.81)となり、目標(グループ全体で1.50以下)に対して未達ではありましたが、災害件数は国内外とも減少し、グループ全体としては2006年以降で最良の度数率となりました。当社では、労働災害の深刻度をA~Dの4段階で評価する独自の指標を導入しており、より深刻な労災にあたるA及びBランクの件数で目標(A、Bランク災害ゼロ)を設定しています。2020年のA、Bランク災害は、グループ全体で合計3件(国内グループはAランク災害1件、Bランク災害1件、海外グループでBランク災害1件)発生し、目標未達となりました。3件のうち2件は指先の挟まれ巻込まれ、1件は搬送中の重量物の落下による衝突でした。このような深刻な災害のゼロ化を目指し、設備、管理面での強化を図ります。また、昨年同様、転倒などの個人の不用意・無意識な行動による労災が多く発生しており、この様な「行動型災害」の低減にも引き続き取り組んでいます。経験の浅い作業者の労災も多く、「新人教育」の見直し、充実化を図ります。これらの課題に対する取り組みを確実に進め、今後も安全で災害のない職場を目指して取り組んでいきます。
新規事業、設備投資案件等におけるリスク評価
クラレグループでは、国内外の新規プロジェクトや設備投資について、「技術評価委員会」「技術検討会」「安全・環境審査」でプロセスの安全や労働安全衛生に係る事前の調査やリスクアセスメントを実施し、安全対策・環境対策が十分に検討されているか、を確認したうえで次ステップに進む体制を構築し運用しています。また、原材料や設備、運転条件、組織の変更、組織の変更に伴う人の異動(責任者、管理者、担当者等)などが生じた場合には「変更管理」の一環としてリスクアセスメントを行い、必要な対応をとった上で変更を実施しています。これらの取組を確実に運用することで新規事業、設備を導入する際の安全確保を図っています。
海外化学プラントに対する安全監査
近年、海外グループ会社の化学プラントにおいて爆発を伴う火災事故が連続して発生していることを受け、海外グループの安全と安定操業を確実なものとするため、2019年度から海外化学プラントに対する安全監査を開始し、安全対策の見直し・強化を図っています。2020年度は、欧州2 工場の実地監査を実施、米国の2工場は新型コロナウイルスの感染拡大の影響によりリモートで監査を実施しました。2020 年度の安全監査では、前年に抽出された課題(変更管理や特定作業の許可・承認システムの運用強化、非定常時(運転の停止、開始時)の危険源の特定など)への対応状況の確認を行うとともに、新たな課題(高リスク項目に関する教育訓練、マニュアル化されていない作業の管理など)を抽出しました。2021年度も引き続き未監査の海外工場の監査を行うとともに、既に監査が終了した工場についてもフォローアップ監査を予定しています。今後も海外化学プラントの課題抽出と対策について、国内グループからの支援も強化し、各プラントに適した保安管理システムの構築、改善を図って行きます。
クラレ独自の保安事故評価法について
これまでクラレグループでは保安事故について、事故の程度の大小を区別せず発生件数で保安成績の評価を行い、目標設定を行ってきました。しかしながら、この方法ではリスクに応じた適切な目標設定が行われているとは言えない状況でした。そこで、保安事故の大小による分類を行い評価指標に組み入れようとしましたが、一般に知られている分類法(CCPS法等)では、クラレグループで発生している保安事故のほとんどが最小ランクに分類され、我々の目的に合致するものではありませんでした。そこで、2020年に当社独自の評価法を構築しました。この評価法は、事故の種類(火災、爆発、漏洩など)毎に事故の規模を分類し、また人的被害の有無、事故の発生に至った要因などを加味してランクを決定するもので、CCPS分類の最小ランクの災害もさらに分類、区分できるものとしました。これにより、A、B、Cランクに分類される大きな事故は“決して起こしてはならない事故”として発生ゼロを目指すとともに、D1、D2ランクに分類される小さな事故(危険物の微少漏洩、直ちに消火した小火など)については、“発生の頻度を低減する事故”としてそれぞれの目標を設定することで、リスクに応じた適切な保安リスク低減活動に役立てていきます。
労働災害評価
労働災害の分類の指標として、一般的には実際の傷害の程度による分類(死亡災害、休業災害、不休業災害など)が用いられています。その中でも休業災害を基にした度数率が組織の安全レベルの評価や組織の安全の目標としてよく用いられます。しかし、この評価方法では、以下のような点から実際の安全レベルと乖離する場合があるのが実状です。
- ①傷害の程度は「偶然」に左右されやすい。
- ②災害の発生要因が考慮されない。
- ③(グローバルな管理に使用する場合)国柄により傷害程度の判断が異なる。
そこで、当社独自の指標として、「偶然」の要素を除き、発生要因の評価を加えた新しい労働災害評価ランクを設定しました。実際に起きた傷害程度ではなく、労災が発生した事象に対して、それにより潜在的に起こり得た傷害程度を数値化しています。更に、災害発生要因の不具合の度合いを、人的、設備的、管理的要因に分けて点数化し、潜在的な傷害程度に加えることにより、A、B、C、Dの4段階にランク付けしています。
その結果、深刻と判断されるAランクとBランクの労働災害の発生件数を、その組織の安全レベルを評価する指標として利用可能になりました。