社会のために価値を提供する企業文化をいつまでも大切にし、世界を牽引する真のグローバル企業として飛躍してほしい。
社外取締役の役割は、さまざまな経験を背景に第三者の視点を持って、社内役員とは異なる角度からの提言を通じ、企業価値向上に寄与することだと思います。クラレの取締役会は非常に活発な議論が行われており、私自身もこれまで行政計画に携わってきた経験を生かし、長期的な視点から積極的に提言をしています。
取締役会議長である伊藤会長は、専門的なスキルを有する役員の多種多様な意見を十分に聞いた上で議論を取りまとめています。必要な場合には今後取り組むべき課題を提示し、議論をより活発化させるなど、チェアパーソンとして優れた資質を有しています。一方、役員の多様性については、社外役員が約半数を占め、外国人取締役1名、取締役会および監査役会に女性社外役員各1名が在籍していますが、先進的なガバナンス体制を持つ企業と比較すると十分ではありません。グローバルな事業展開、女性管理職比率の増加に伴い、将来的には多くの海外人材や社内で育ってきた女性役員などが経営に参画する多様性のある取締役会へと進化させることで、議論をさらに深められると考えています。
2022年度の取締役会では、ロシアのウクライナ侵攻、急激な円安の進展、原燃料価格・物流費の高騰といった不透明なファクターが多い経営環境の中で、物流コストの削減方法や製品価格改定の進め方などの議論がありました。結果的に、主力事業であるビニルアセテートが競争優位性を大いに発揮したこともあり、売上高、営業利益はともに過去最高を更新、増配も決定し、中期経営計画「PASSION2026」の初年度としては非常に良い結果であったと高く評価しています。一方、課題としては、ビニルアセテートに続く新しい収益の柱を早期につくる必要性を改めて認識しました。この課題は「PASSION 2026」の中でも重要テーマとなっており、イソプレン関連事業を次なる柱とすべく、本年稼働を開始したタイの新プラントを早期収益化につなげるストーリーが描かれています。大規模な投資を伴う施策のため時間を要するかもしれませんが、成長を大いに期待しています。また別の柱として、環境ソリューション事業の活性炭に注力しています。2018年に米国のカルゴン・カーボン社を買収し、想定していたよりも遅れてはいますが、着実にシナジーが発現してきています。いずれの製品も世界的に需要が伸びており、それぞれが次なる柱へと育っていく手応えを感じつつありますが、世界経済の状況も大きく変わってきています。「PASSION 2026」に関しても、進捗状況のレビューをしっかりするとともに、環境変化に合わせ、個々の施策について改めて議論をすることが重要だと考えています。
今後、クラレグループが真のグローバル企業として飛躍するための提言の一つとして、人的資本の強化が挙げられます。クラレグループは2000年代以降の戦略的M&Aにより急速にグローバル化が進みました。そのため、グローバルな人材育成・人事制度については改善の余地があります。これまでも危機感をもって取り組んでいますが、今後も検討を重ねながら注力すべきだと考えます。また、日本企業全体にいえることですが、1995年以降、国内労働人口は減少の一途を辿っています。今後、人材不足が深刻化する中で「選ばれ続ける企業」であるためにも、人的資本は強化していくべきです。
クラレグループには、創業者の大原孫三郎・總一郎から受け継いだ「世のため人のため、他人(ひと)のやれないことをやる」という素晴らしいDNAがあります。社会のために価値を提供し、利益を上げて、さらにその利益を社会に還元していく、ということを実践する不退転の企業文化があります。この原点をいつまでも忘れずにいてほしい。そして、世界を牽引する真のグローバルカンパニーとなるよう、私も引き続きサポートしていきます。